浦島太郎の話
 1990年を挟んだ80年代後半から90年代前半にかけて、ほとんど釣りをしない数年間がありました。
 この間は釣具店にも行かず雑誌も見ずでしたが、釣り自体は長い間大きく姿を変えることなく楽しまれてきた遊びですから何も変わっていないだろうと思っていました。
 ところが、数年ぶりに釣りを再開した時は浦島太郎状態になっていました。


 一番に感じたのがクサフグが異常に増えていたこと。
 温暖化の影響なのか、夏だけでなく冬のカレイ釣りでも餌取りとしてコイツの姿が見られるようになっていました。
 釣りを休む前は大阪湾、特に泉南の投げ釣りではガッチョが餌取りの代表格で、そのヌルヌルで嫌われていましたが、食べると美味しいので大きめの物は嬉しい獲物でした。
 ところがこの嬉しい外道のガッチョは、すっかり数が減ってしまいました。ガッチョは砂礫質の底を好み汚れがたまった泥底を嫌うらしく、ガッチョの激減は水質や底質を考えた時には、あまり良い傾向とは言えないようです。ガッチョに変わって餌取りの代表格として異常に幅を利かせているクサフグ。
 数年釣りをしていないだけで大阪湾の様相はすっかり変わっていました。


 二つ目に、ハネ、スズキがシーバスに変わっていたこと。もちろん、ハネ・スズキをルアーで狙う釣りは以前からありましたが、ごつい磯竿や軽めの投げ竿でルアーをぶん投げていた印象があります。シーバスロッドと言われる軽いタックルでボートをチャーターするおしゃれな釣りが誕生していました。
 少し遅れてアオリイカも同じように、和歌山の地元のおいやんがヤエンで狙うご当地釣法からエギで気楽に狙う釣りに。さらにゲーム性の高いエギングになっていきました。当初はエギ釣りも夜の釣りで、昼間にエギ釣りをするのを「日中エギング」等とわざわざ別に呼称したりしていましたが、今では昼間にイカやエギの動きを視認しながら釣るゲーム性の高い釣り方が普通になり、逆に「ナイトエギング」なんて呼称を見かけるようになってきました。


 三つ目は釣具が意外と値上がりしていなかったこと。この間に値段が大きく上がったのは釣り糸くらいではないでしょうか。その代わりハリスは驚異的に強くなりました。 フロロやPEをはじめ、糸は一番進化した釣具かもしれません。
 他の道具、竿やリール、クーラーといった大物、針やエサといったものは、下手をすると私が子供の頃の40年前と比べても、極端には値上がりしていない様な気がしますし、モデルチェンジどころかマイナーチェンジも無く、全く同じ商品が売られているものすらあります。



 こうした中でもやはり一番印象が強かったのは、クサフグの異常な増加に代表される釣魚の様変わりでした。
 フグは元々が暖かい海にその種類も多い魚ですから、やはり温暖化や水温上昇の影響もあるのだと思います。アイナメが減り、カレイも減りました。
 代わりに単に昔は狙う人がいなかったのかもしれませんが、大阪湾内でもアオリイカやメッキの釣果情報を見かけるようになりました(もっとも、多少ベクトルのかかった情報のような気がしますが)。

 タチウオやアジの釣期が長くなり、カレイやアイナメ等の冬の魚は釣果が悪くなり、さあシーズン!という程の釣果をあまり目にしなくなってしまい、季節のメリハリが無くなったような気がします。
 そのカレイもマコガレイばかりで石カレイはめったに見かけなくなりました。これもマコは泥底を好み石は砂礫を好むと言われますから、大阪湾の底質に変化が起きているのだと思います。


 こうした釣魚の変化が、10年以上単位の周期的な変化のたまたまの一部なのか、温暖化や水温上昇等と取り上げられる大きな自然環境の変化の結果なのかはわかりませんが、10数年前と釣れてくる魚が変わっている印象があるのは確かです。


 もう一つ、重要なことがありました。釣り場のゴミが増えている事です。自然保護の理解やエコ意識は以前より上がっている筈なのに、釣り場だけが以前よりゴミが増えているのは恥ずかしい事です。少なくとも自分だけはゴミを出さずに少しずつでも釣り場や海岸、海や川を綺麗にしていきたいものです。

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